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最高裁判所第三小法廷 昭和53年(オ)1099号 判決 1979年7月24日

東京都豊島区西池袋四丁目一八番七号

上告人

堀節治

右訴訟代理人弁護士

藤川成郎

被上告人

右代表者法務大臣

古井喜實

右指定代理人

石川隆

右当事者間の東京高等裁判所昭和五二年(ネ)第三八三号不当利得返還請求事件について、同裁判所が昭和五三年五月二三日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よって当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人藤川成郎の上告理由第一点及び第三点について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、いずれも採用することができない。

同第二点について

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして是認することができる。右事実関係のもとにおいて本件弁済金の充当につき民法四九一条一項を適用すべきものとした原審の判断は、正当である。論旨は、独自の見解に立つて原判決を論難するものであつて、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高辻正己 裁判官 江里口清雄 裁判官 環昌一 裁判官 横井大三)

(昭和五三年(オ)第一〇九九号 上告人 堀節治)

上告代理人藤川成郎の上告理由

第一点(法令違背)

原判決は虚偽表示(民法第九四条第一項)の解釈を誤つたため裁判上の和解による利息損害金の放棄を無効としたものである。すなわち原判決は本件和解条項中の上告人が本件二口の貸金債権のうち元本債権を除くその余の債権を放棄する旨の条項は、上告人が税務対策上相手方と通謀してなした虚偽表示によるものであり、真の合意は本件二口の貸金債権と大木みよ名義の貸金債権の合計三口の貸金の弁済額を合計八三〇万円とし、上告人は右金員の支払いを受けたときは右三口の債権のその余の部分を放棄する旨のものであるから、その際右弁済金の充当関係についてはなんら特段の合意ないし意思表示がなかったものであると判示している。しかしながら原判決(及び一審判決)が認定している合意がなされた時期(昭和三六年)における右三口の貸金の元本及び損害金の額は、(1)元本三〇万円とその損害金四、六六八、〇〇〇円、(2)元本一、五五八、九五〇円とその損害金八、〇五一、三四九円及び(3)大木みよ名義の元本二、五〇〇、〇〇〇円とその損害金一三、七九五、〇〇〇円であって(原判決別表参照)、弁済金八三〇万円を右(1)(2)の損害金に充当せずに(3)の損害金あるいは(1)(2)(3)の元本の弁済に充当するとの合意をすることになんらの法律上の障碍はないのである。これすなわち三口の貸金の弁済額を合計八三〇万円とし、その弁済を受けたときは右三口の債権のその余の部分(元本か損害金かは問わず)を放棄する旨の合意と三口の債権のうち二口の損害金への充当をしないという合意は両立しうるものなのである。これを両立しえないものと考えて後者を虚偽表示として無効視する原判決の誤りは明白である。

本件和解(甲第八号証)において上告人は本件二口の債権につき債務者らに元本債権のみの存在を認めさせ、利息損害金債権をすべて放棄するとした上で右元本債権を参加人に譲渡している。右譲渡は現実に実行され、譲受人が譲受けた元本債権に附随する抵当権を実行している(甲第一九号証中乙区参番付記壱号、甲区拾五番の各登記事項参照)。上告人は元本債権を券面額の対価をもつて譲渡しているのである。これをみれば損害金全部の放棄は別としても八三〇万円のうちより本件二口の元本債権への弁済充当があったとみるべきことは否定しえない。そうとすれば昭和三一年及び三〇年分の本件二口の損害金への弁済充当額合計一、六六五、九二六円(原判決別表(一)参照)はなくなり本件貸倒れの発生が認められることとなる。原判決認定の真の合意と債権者債務者並びに代位弁済者間において元本、損害金のうちいずれに弁済を充当するかの合意は矛盾することなく両立しうるのであるから充当すべき債権をとりきめることが虚偽表示とされるいわれはないのである。この点においても原判決の誤りは明白である。

第二点(法令違反)

原判決は元本と利息損害金の合計額に満たない金員の支払により残金の支払を免除する場合における弁済金の充当につき民法第四九一条第一項を適用すべきものというが、かかる場合は特段の合意なき限りまず主たる元本に充当し、残余を利息損害金の一部に充当して足らざる利息損害金の免除(放棄)をするのが当事者の通常の意思に相応するのであって、かかる場合に民法第四九一条第一項を適用するのは誤りである。債務者の抗争にあう債権者は通常まず利息損害金の減額ないし放棄をなし、せめて元本の回収を実現しようと考えるのであり、債務者は紛争の最終的解決として元本を消滅せしめて将来二重に請求を受ける不安を一掃しようと考えるからである。要するに民法第四九一条第一項の規定はいずれの債権を存続させるのが公平であるかの見地から定めた規定であり、未充当債権の消滅の合意が当事者間でなされる場合に適用すべき規定ではないのである。

第三点(経験則違反)

原判決は八三〇万円の授受の約定及びそのうち一、八五八、九五〇円を榊原正枝の代理人に交付して滞納税金の支払をなさしめる旨の約定があつたとする一審判決の認定をそのまま肯認しているが、かかる大金の授受を領収書、小切手決済の証拠等なしに認定することは証拠評価においてとるべき経験則を無視するもので到底承服しえない。当時訴訟代理人として関与した菅野次郎、尾形慶次郎弁護士はかがる裏取引の存在を知らないと証言しており、上告人の相手方弁護士たる菅野次郎作成の甲第一〇号証の記載からみても上告人が元本金額相当の金員の受領をもつて請求を断念したことは明らかである。菅野次郎弁護士は和解調書所定の貸金元本譲渡代金を東京国税局に持参して参加人榊原正枝の名で支払った旨及び大木みよ名義の債権の弁済金が二五〇万円であった旨供述している(菅野次郎の証人調書速記録九枚目及び一一枚目参照)。上告人の相手方弁護士である菅野次郎がこのように上告人の主張を裏付けていることこそ重視さるべきであり、私人の裏付なき単なる供述のみを採用して大金の裏取引ありとした原判決は上告人に対する偏見に基くものである。 以上

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